2012年4月22日日曜日

◆モロッコのラグ&カーペット一問一答: Marrakech Photo Diary


ラグについてよく頂くご質問をまとめてみました。

「手織りのラグ・カーペットと言うと「キリム」が有名ですが、モロッコの手織りラグはキリムでは無いのですか?」

「キリム」とはトルコ語で平織りの毛織物を指す言葉です。
厳密に言えば、トルコ語圏以外の織物にはその土地の呼び名があるのですが、広い範囲でトルコ以外の「平織りの手織り毛織物」全般を指すことが一般的です。
モロッコの手織りラグ(Zemmour、アフニフなど)もキリムの一種です。
モロッコのラグ&カーペットは、それぞれの産地又は生産地のベルベル部族の名前で呼ばれることが多く、例えば一番モロッコらしいラグであるZemmourは、ベルベル人の一派であるZemmour族によって織られるものです。

同じ平織りでも、発達してきた歴史が異なりますので、トルコのキリムとモロッコの平織りラグは織り方や模様がかなり異なります。


「モロッコのラグ&カーペット作りはいつ頃から始まったのですか?」

モロッコの平織りラグ&カーペットの歴史は古く、昔々モロッコの沿岸部に古代フェニキア人がやってきたころ、毛織物の技術をモロッコの先住民であるベルベル人に伝えたのだそうです。
最初は荒い羊毛を簡単に編んだようなラグだったのが、徐々に進化して今では非常に複雑な模様が織り込まれるようになりました。
伝統的なものと言っても、ずっと同じものを織り続けているわけでは無く、現在では様々な新しいラグ&カーペットが織られています。
新しいもの中には残念ながら安かれ悪かれな観光客向けの粗悪なラグもありますが、古いシルクを解いて織りなおしたラグなど、素晴らしいものもあります。


「トルコのキリムとの違いは?」

模様について。トルコのキリムには、若い女性が好みそうな、女性の姿、生命の木、櫛飾りなどの模様が多いようですが、モロッコのラグ&カーペットに織り込まれている模様はもっと抽象的です。
一見して何を象徴しているのか分からないような模様が特徴です。
織り方も全く異なりますが、ご説明が難しいので別の機会にさせて頂きます。


"シロアリは、色を見ることができます。"


「草木染ですか?」


残念ながら、100%ナチュラルな素材で織られるモロッコ産のラグ&カーペットはほとんど存在しないと思われます。
19世紀にはフランスから化学薬品、化学染料が持ち込まれ、大量に使われるようになったからです。
ただし、田舎で自宅用に織られたものの中には、ほとんどナチュラルな素材で織られたものもあるようです。
これは、草木染の方が良いからとか、優れているからと言う理由ではなく、ただ単に人工染料や薬品が手に入りにくいとか、お金が掛かるという理由であり、天然染料の方が良いと言う認識があるわけではありません。

手織りラグ&カーペットは本来野外生活で使われるものですから、ベルベル人が自分達が使うために織るものを見ると、太陽による色落ちを計算に入れてかなり強い色合いで織り上げて居ます。
草木染で織りあがったばかりの伝統的な手織りラグ&カーペットがナチュラルな風合いかと言うと、そうでもなく、現代的なインテリアに合うように計算して化学染料で織られたものの方が、色合いが美しいと言うこともありえます。
ベルベルの何も無いシンプルなスタイル、強い太陽の下では彼らが好む強烈な色合いも非常に魅力的に見えるのですが、それをそのまま日本のインテリアに合わせるのは難しいかもしれません。


「縦糸にコットンが使われているものがありますが、何故ウール100%で織らないのですか?」

モロッコのラグ&カーペットの中で縦糸にコットンが使われているものには、Zemmour、アフニフなどがあります。(すべてではありません。)
ウール100%のほうが上質と言うイメージがありますが、コットンが使われるのには意味があります。
縦横共にウールを使うと、水洗いした際にどうしても縮んでしまい、形がいびつになりやすいのですが、縦糸にコットンを使うと歪みにくく、綺麗な長方形が保ちやすいという理由です。


「平織りって何ですか?パイルって何ですか?」

平織りと言うのは毛足が無い織り方の事で、「パイル」と言うのは毛足の事です。
モロッコの代表的な平織りラグには「Zemmour」(発音が難しいのでローマ字で書いています。ゼンモール、ズンモーリンなどと言われます。)、アフニフなどがあります。
パイルカーペットでは、タズナフト、シシャワなどが代表的です。
ディアモロッコでは取り扱っていませんが、パイル織りと平織りをミックスさせた様な織りかたもあります。


「古いものほど良いのですか?」


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ただ古いだけでは価値はありません。
古いラグ&カーペットの中は家庭で使うために織られたものです。
家庭で使うために、と言うことは織り手は素人ですから、非常に上手な人も居れば、下手な人も居ます。
また、素材のウールも、非常に上質なウールを使っていることもあれば、粗悪なウールを使っていることもあります。

ただし、何十年も前に織られたものが残っているということは、それが素晴らしいものだから大事にされてきたと言う場合が多く、古いラグ&カーペットの中に素晴らしいものが多いことは確かです。
ラグ&カーペットは敷物ですから、何十年も経つと使っている内に破れたり解れたりしますが、美しいものだけが補修されて残されます。
ですから、補修後があるラグ&カーペットは、補修されるほどの価値があるものであることが多いです。
(それほど美しくないものは、カットして綺麗な部分だけクッションカバーやバッグなどに作り直し再利用します。)

古くて汚いものになるか、古くて味わいがあり美しいものになるかは、やはり最初に丁寧に織られたかどうか、良い素材が使われたかどうかで決まってきます。
きちんと織られたラグは使い込まれると、織物と言うよりは少し紙っぽい手触りになり、一枚の布のような風情になります。
また、非常に上質のウールで織られた古いカーペットは、やわらかい絹の様な手触りになります。

モロッコのラグ店で見かけるラグ&カーペットの90%位が新しいものです。
よく、色あせたものを「これはアンティークで** 年物で・・・」などと説明しているラグ屋さんと聞き入っている旅行者を見かけますが、色があせているだけです。
ラグ屋さんのテラスに上ると、色あせさせるために色とりどりのラグ&カーペットが干されています。

新しく織られたもので柔らかい綺麗な色のラグ&カーペットは沢山あります。
良い色に仕上がっているのですから、新しいものですと説明すれば良いのに・・・と思いますが。


「アンティークのラグ&カーペットの年代は分からないのですか?」

分かりません。
古いラグ&カーペットを生産者から直接買い取ることは現実的に不可能で、生産者→それを買った人(又は譲り受けた人)→卸業者→小売業者
と言う風に様々な人やお店を通って私たちの手元に届きます。
目利きの人が見れば、使われている模様やウールの質などで大体の年代は分かりますが、はっきりと*年前のものと言うことは出来ません。
大体モロッコでは田舎に行くと、自分の生年月日や年齢も知らない人々が居ます。たとえ生産者から直接買ったとしても、ラグの正確な年代を聞いても誰も分かりません。


「使い方で気をつけるべきことはありますか?」


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特にありません。洗う時だけは気をつけて下さい。→ラグ&カーペットのお手入れ方法
手織りラグ&カーペットはもともと野外で使うものですし、靴のまま踏んでも平気なものです。
敷物の一番下の下敷きに使われたり、ロバの背中に乗せられたりすると、やはり擦り切れて痛んでしまったりするのですが、現代の日本の普通の生活の中でお使いいただく分には、それほど気を使っていただかなくても大丈夫だと思います。

日当たりの良いところに置きますと徐々に色あせます。
色褪せても綺麗なのがラグ&カーペットの魅力ですが、時々向きを変えていただくと、全体に綺麗に色が変わると思います。


「モロッコのラグ&カーペットはどのように発達してきたの?」

モロッコの手工芸品には二つの流れがあります。一つは先住民であるベルベル人の生活の中で培われてきたもの。もう一つはアラブ系の王族や貴族が使うための絢爛豪華な装飾品。
ラグ&カーペットもこの二つの流れを汲んでいます。
昔々、古代フェニキア人がモロッコの先住民であるベルベル人に毛織物の作り方を伝えました。その後各村々で伝えられてきた伝統的なラグ&カーペットが、モロッコのトライバルラグとして知られているベルベル人のカーペット&ラグです。
その一方でラバトやフェズで主にアラブ人によって織られて来たのが、王宮のインテリアなどに使われるカーペットです。

ディアモロッコでは、ベルベル人のラグ&カーペットを中心にご紹介していますので、彼らのラグ&カーペットについてご紹介します。
モロッコのフランス保護領化前までは、ほとんどのベルベル人は遊牧、半遊牧生活を送っていました。
冬は日干し煉瓦つくりの家に定住し、春から秋にかけては移動しながらテントで暮らすというスタイルです。

貨幣経済はあまり発達しておらず、自給自足及び市場(スーク)での物々交換の生活ですから、生活に必要なものは出来る限り自分たちで作り出します。
彼らの生業は遊牧。と言うことでウールを使ったものづくりが進みました。
その一つが手織りラグ&カーペットです。

自分たちが育てた羊の毛を刈り、紡ぎ、簡単に手に入る自然の素材で染めます。
そして木の枝などを簡単に組み立てた織り機で女性が織る。

このようにして、テントの外側、テントの内側の飾り、内部の敷物、ロバの鞍の飾り、寝具、マントなど様々な用途での織物作りが行われるようになりました。


織物は女性の仕事。
織物が始まったときは、ただ天然のウールの色の毛糸をそのまま織り、使用する事が目的だったかもしれませんが、時間の経過と共に様々な模様や色使いが発展してきました。
ベルベル人の道具には共通した模様が見られます。
これらの模様には様々な意味が込められて居ますが、ほとんどが魔よけや邪視避けにつながる意味です。
女性たちは、ラグ&カーペットにそれらの意味を織り込む様になりました。

また、織物は、ベルベルの女性たちにとって、数少ない自己表現の方法でした。
ベルベルの女性たちは、アラブ人の女性たちと比べると、外に出て働くことが多く、開放的だと言われていますが、そうは言っても、一日のほとんどを家庭の中で過ごします。
美しいラグ&カーペットは、テントの外側の飾り、内側の絨毯、ロバの鞍の飾として使われることが多く、人目に付きます。
細かく美しいラグ&カーペットを織れると言うことは、その女性の評価に繋がります。
結婚前の女性であれば「さぞ繊細で美しい人に違いない」とか、結婚後の女性であれば、「彼女の娘さんと結婚したい」などと思われるきっかけになります。

現在では、彼らの生活スタイルもかなり変わり、定住生活をする人が殆どですが、美しいラグ&カーペットを織れると言うことは、そのまま現金収入に繋がることですから、やっぱり結婚相手としては人気なのだそうです。


「お勧めラグ&カーペットの判断基準は何ですか?」

個人的な基準です。ただ、私が自分のためのコレクションにしようか、販売しようか迷った商品につけています。
ラグ&カーペットの一番の魅力と言いますか、特徴と言うのは、まったく同じものが無く、一枚一枚個性がある事です。
その中でも似た雰囲気のラグ&カーペットが沢山出回っているものもあれば、売ってしまったら二度と出会えないであろう雰囲気のラグ&カーペットもあります。

最近ではあまりラグ作りが行われなくなった地域のもの、超上質のウールを使って織られたもの、新品のシシャワであっても、非常に色使いや模様のバランスが良いものなど。

そう言った素晴らしいラグ&カーペットに出会うと、どうしようかと悩みます。
でも、大抵の場合は販売します。
出来るだけ良いものをお客様にご紹介して、モロッコのラグ&カーペットの良さを知って頂きたいと思います。
お勧めラグ&カーペットの中には、アンティークのラグ&カーペットとして価値が高いものもありますが、新品もあります。
コレクターのお客様向けかどうかと言う基準では選んでおりません。

ディアモロッコ 宮本 薫/ http://www.dearmorocco.com



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