出典: 閾ペディアことのは
塩素消毒は、水に塩素を加えることで飲用水として使えるようにする浄水方法の一つ。塩素を加えた水は、飲料水を媒介として感染する病気が広まることを防ぐ効果がある。
飲料水の塩素消毒には、健康に対する影響が心配されたことから当初は抵抗があった。塩素消毒はバクテリア、ウィルス、アメーバのほとんどに対して効果的であったため、飲料水を媒介として感染する病気の流行を防ぐこととなった。
塩素消毒は、プールの水を消毒したり、下水処理の消毒段階においても使われる。ショック塩素消毒(Shock chlorination)は、多くのプール、井戸、泉その他の水源で、水中のバクテリアや藻の残留を減らすために使われるプロセスである。ショック塩素消毒は次亜塩素酸ナトリウム(高度さらし粉)を大量に混ぜることによって行なわれる。これは塩素漂白剤のような粉末または液体の形で水中に投下される。ショック塩素消毒が行なわれた水は、水中での次亜塩素酸ナトリウムが3ppm以下にならないうちは泳ぐにも飲用にも適さない。
歴史
塩素で水を殺菌することを提案した最初の科学者はフランスのルイベルナール・ギュイトン・ド・モルヴォー(Louis-Bernard Guyton de Morveau)、イギリスのウィリアム・カンバーランド・クルックシャンク(William Cumberland Cruikshank)で、どちらも西暦1800年前後のことである[1]。
1879年、塩素が初めて実際に消毒剤として用いられた。イギリスのウィリアム・ソーパー(William Soper)は、下水道に流す前に腸チフス患者の糞便を消毒した。これにはさらし粉(次亜塩素酸カルシウム)を使用した。
1893年、ドイツのハンブルクにおいて、塩素が初めて工場規模の消毒剤として使われた。
1903年、ベルギーのミッデルケルケ(Middlekerke)で塩素ガスが初めて飲料水の消毒剤として用いられた。これ以前には、消石灰、さらし粉、粉末漂白剤によって塩素が加えられていた。この塩素ガス使用は、ベルギー公共事業省の化学者Maurice Duykによって行なわれた。
「(初めて)連続的に消毒したのはイギリスのLindolnで腸チフス対策として、微生物学者のHouston(ヒューストン)と化学者のMcGowan(マックゴーン)の勧告に従って次亜塩素酸ナトリウムを用いて1905年に行ったのがよく知られている」[2]
電気かみそりショック
1908年、アメリカ合衆国で初めて飲料水プラントにおいて全面的な塩素設備が始まった。この設備は、シカゴのバブリー・クリーク・フィルター・プラント(Bubbly Creek Filter Plant)に設けられた。この浄水プラントはシカゴ家畜置き場(Chicago Stockyards)に供給するためのものであり、設計者はジョージ・A・ジョンソン(George A. Johnson)である。それまでの生水には大量の下水が含まれており、家畜に病気をもたらしていた。ジョンソンは石灰の塩化物(次亜塩素酸カルシウム)によって塩素を水に加えた。これにより、水中のバクテリア量は劇的に減った。
同年、ニュージャージー州ジャージーシティー水処理場(Jersey City Water Works)で大規模な塩素消毒が開始されたという記録もある[3]。これは次亜塩素酸ナトリウムを使用して消毒する最初の設備となったが、加えるべき塩素の量に関しては適当であった。
1910年、圧縮液化塩素ガス使用による飲用水の浄化技術は、陸軍医学校の化学教授であったアメリカ陸軍のカール・ロジャース・ダーナル(Carl Rogers Darnall)少佐(のち准将)(1867-1941)によって1910年に開発された[4]。カール・ロジャース・ダーナルは、現在も使われているスチールシリンダーからの圧縮塩素ガスを初めて使った。その設備はオハイオ州ヤングストンにあった。この装置では減圧機構、測定装置、吸収チャンバーを使っていた。これはかなり成功したが、一度しか使われなかった。それでもダーナルの研究は現在の浄水塩素消毒システムの基礎となった。この技術は1930年代に完成され、第二次大戦までに米国にて広く採用された。
その後間もなく、陸軍医療部のウィリアム・J・L・リスター(William J. L. Lyster)少佐(のち大佐)(1869-1947)が、リネン袋に入れた次亜塩素酸カルシウムを水の消毒に使う方法を編み出した。リスターの方法は数十年間、戦場やキャンプにおいて合衆国地上部隊によって標準として用いられ、リスターバッグ(Lyster Bag, Lister Bag)という名前で親しまれた。
1912年、デラウェア州ウィルミントン水道局の技師長ジョン・キーヌル(John Kienle)は、飲料水に塩素を加える別の方法を発明した。圧縮塩素をシリンダーから吸収タワーに送り込み、そこで水が塩素ガスの流れと逆に流れる。ガスの流れが水流と反対であったために、塩素が水を殺菌する効果が高まった。また、「1912年にはドイツのGeroge Ornstein(ジョージ オルンシュタイン)が塩素減菌器を発明し、Wallace(ワレス)とTierman(ティールマン)が商品化した」[5]
extrusin染料会社ウィスコンシン州チペワフォールズ
1913年、デラウェア州ウィルミントン浄水場で、オルンシュタイン塩素装置(Ornstein chlorinator)が採用された。これは市販の塩素処理システムが市立浄水場に初めて採用されたものである。塩素装置はキーヌルの前の装置と同じような原則に基づいていたが、オルンシュタイン塩素装置ではシステム内で塩素量をさらに正確に調節するための上下圧力ゲージを使用していた。
1914年10月14日、アメリカ財務省は飲料水のために消毒しなければならないという基準を制定した。これらの基準では、100ミリリットル中に2大腸菌群以下と指示していた。当時の主な消毒方法は塩素消毒であったため、この基準によって塩素使用プラントの数が激増した。
1919年、二つの重要な発見が行なわれた。ボルティモアのメリーランド衛生局の土木技師アベル・ウォルマン(Abel Wolman)と化学者リン・H・エンスロウ(Linn H. Enslow)は都市水道水の塩素処理のための厳しい科学的方程式を示した。ウォルマンとエンスロウは、水を消毒するために必要な塩素量は、廃棄物の濃度と、塩素が水と接する時間量と関係している、とする塩素必要量の概念を示し、適切な量の塩素を加えることが公衆衛生に有益であることを示した。また、同年、アレクサンダー・ヒューストン(Alexander Houston)は、塩素が水の味とにおいの問題も解決できると示した。
日本においては、「水道の塩素消毒は大正10年(1921)に東京、大阪両市で開始され、その後全国に広まった」[6]。また、1923年に横浜市の野毛山配水池に湿式減菌器が初めて導入された。
1925年、大腸菌群の許容量を100ミリリットル中2から1に減らす新しい飲料水基準が制定された。これにより、塩素処理量と頻度が増えた。
1939年、塩素ブレークポイント理論が発見された。
1960年、塩素装置を制御するための複合ループが開発された。これが塩素に関する最後の重要な発見である。
1972年、「ルイジアナ州ミシシッピ川下流での産業汚染」という報告が発行され、水源での有機物汚染によって結果的に飲料水に消毒副生成物が含まれているという最初の証拠が示された。
化学反応
塩素が水に加えられると、次亜塩素酸(HOCl)と塩酸(HCl)が生成される[7]。
- Cl2 + H2O → HOCl + HCl
さらに次亜塩素酸塩は分離して水素イオンと次亜塩素酸イオンになる。
電気機器用ショックマウント
- HClO → H+ + ClO-
主要な酸はCl2とHOClで、有効なアルカリはClO-のみである。ごくわずかだがClO2-, ClO3-, ClO4-も見出される[8]。
欠点
塩素による消毒は、環境によっては問題を生み出すことがある。塩素は水中に「消毒副生成物(disinfection byproducts, DBPs)」と呼ばれる有機化合物を生み出す反応を起こす。
最もよく見られるDBPsはトリハロメタン(THMs)とハロゲン化酢酸(HAAs)である。これらの化合物には発癌性を有する可能性があるため、先進国での飲料水に関する規則では、浄水システムで供給される水におけるこれらの化合物の濃度を監視することになっている。WHO(世界保健機構)は、「DBPsによる健康リスクは、消毒が不適切であることに比べれば極めて小さい」と発表した。
塩素消毒に関しては、揮発性であるために浄水システムから蒸発してしまいやすい問題、味やにおいに関する問題などもある。
代替方法
水の消毒剤として塩素を用いることは、大腸菌に対して、同濃度の臭素と比較して3倍以上、同濃度のヨウ素と比較して6倍以上の効果があった。
伝統的な塩素消毒に対していくつかの代替方法があり、それぞれに実行されてきた。多くのヨーロッパ諸国や米国のいくつかの都市ではオゾンが使われている。現在の法的規則のために、アメリカでオゾンを使っているシステムも、オゾンなしの場合と同僚の塩素残存量を守らなければならない。
クロラミン(クロロアミン)による消毒も普及している。塩素と違って、クロラミンは上水システム内で1.5倍残存し、病原菌への効果を長く保っている。クロラミンが残存し続けるのは、塩素のみの場合と比較して酸化還元反応が起こりにくいからだ。クロラミンはアンモニアを飲料水の中に加えてモノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン(塩化窒素)を生成する。ヘリコバクター・ピロリは大腸菌の何倍も塩素に強いのに対し、クロラミンではどちらも同等の殺菌効果を持つ可能性がある。
濾過処理された水はそれ以上消毒を必要としないかもしれない。非常に多くの病原体がフィルターの微生物によって除去される。濾過処理された水は、濾過後すぐに使わねばならない。ごくわずか残っている微生物が、時間が経つにつれて急増するおそれがあるからだ。
オゾンと比較したときの塩素の利点は、残留したものが一定期間、水を保護し続けるということである。この特徴のため、塩素が上水システム内を流れ続け、病原体が逆流汚染することを効果的に防ぐ。大きなシステムではこれは適切ではないかも知れない。また、塩素レベルが上水システムのポイントによって上昇するかもしれない。そこでクロラミンが使われれば、反応あるいは蒸発するまでに長く水中にとどまる。
人気が高まっているもう一つの方法がUV消毒(紫外線消毒)である。UV処理は、化学消毒剤の代わりに光を使うので、水に残留しない。しかし、この方法だけでは(塩素単独と同じく)バクテリア毒素、農薬、重金属を水から取り除くことはできない。商業的に販売されている水では、多くの方法が重ねて使われている。
さらにもう一つの方法は、銀の殺菌特製を使うものである。
参考文献
- ↑ Rideal, Samuel (1895). Disinfection and Disinfectants, p. 57. J.B. Lippincott Co.
- ↑ 『水質衛生学』(技報堂出版 1996 p.284)。
- ↑ Chlorination of Drinking Water - Office of Drinking Water water system management WA State Dept.of Health
- ↑ Darnall C.R. (1911), "The Purification of Water by Anhydrous Chlorine", American Journal of Public Health; 1: 783–97.
- ↑ 『水質衛生学』(技報堂出版 1996 p.285)。
- ↑ 『近代水道百年の歩み』「近代水道百年の歩み」編集委員会/〔編〕 日本水道新聞社 1988
- ↑ Fair, G. M., J. Corris, S. L. Chang, I. Weil, and R. P. Burden. 1948. The behavior of chlorine as a water disinfectant. J. Am. Water Works Assoc. 40:1051-1061.
- ↑ .Shunji Nakagawara, Takeshi Goto, Masayuki Nara, Youichi Ozaqa, Kunimoto Hotta and Yoji Arata, "Spectroscopic Characterization and the pH Dependence of Bactericidal Activity of the Aqueous Chlorine Solution", Analytical Sciences, 14, 69, 1998.
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